嫌いって言われた訳じゃないけれどスタンプだけで返事されるし／小泉夜雨　（2017年9月19日　題「ネガティブ」）

やはらかな桃にナイフをあてるとき愛と殺意のにじみゆくこと／春原シオン　（2020年8月24日　題「殺」）

人類がはじめて死者のとむらいに手向けた花へ降りた朝露／山口綴り　（2019年3月5日　題「1800カラットのダイヤと同じ美しさ」）

ブラ紐も髪も心も捻れててまるで知恵の輪みたいな私／四辻さる　（2020年10月7日　題「輪」）

昨日より濃く焼き上がるトーストを秋色と呼ぶひとのやさしさ／ともえ夕夏　（2022年9月16日　題「秋色」）

計算が合わない　あなたを足した僕からあなたを引いただけなのに／藤井　（2023年11月3日　題「あなた」）

買ったのはデートのためで言うなればあなたに似合うスカートだった／藤井　（2023年9月13日　題「似合」）

あみだくじ辿るみたいに畦道を帰る　ここから逃げたい日がある／毛糸　（2022年8月31日　題「畦道」）

こんなにも薄い肩だと気づかずに背負わせてきた重さを恥じる／朧（ろう）　（2019年10月6日　題「肩」）

僕たちはプラネタリウムにない星をあさり炒めの中に見つける／なぎさらさ　（2018年4月10日　自由詠）

2kgだけ痩せました　きみを好きだったわたしはたったそれだけでした／尾崎飛鳥　（2021年1月10日　自由詠）

ビヒダスとともに飲みこむ理不尽が生きたまんまで腸まで届く／カラスノ　（2021年10月8日　題「ヨーグルト」）

防波堤越えないように何回も何回もマスカラを重ねた／ごまだれぽんず　（2021年1月28日　題「防」）

生きるとは名もなき歌の増えることスタッカートで刻む青葱／汐見りら　（2023年1月23日　題「生」）

もうとうになくした肘のかさぶたに触れながら聞く相談事を／永昌　（2017年4月26日　題「かさぶた」）

書かれてもゐないことまで受け取つて滲んでしまふあなたの手紙／高田月光　（2023年9月16日　題「滲」）

退職を決めてる女子の指先はすべて忘れたような銀色／青海ふゆ　（2020年1月23日　題「忘」）

古ぼけたゲームボーイに生きているピカチュウが待つ少年の僕／ぽちうに　（2021年4月7日　題「ゲーム」）

あまりにもきれいに蜜が入っててすりおろし刑逃れる林檎／荒地識　（2019年11月29日　題「蜜」）

揺らされるまま揺れていて生き物であると時々忘れてしまう／真島朱火　（2023年9月22日　題「揺」）