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秘封倶楽部と状況

@hhclubss

現在 全412話。制作: @ubuwarai

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calendar_today27-06-2019 12:07:31

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廃墟で私が燻製鍋の準備をしている間、メリーは手伝いもせず床の亀裂に目を奪われていた。ゆっくりと手招きされ、亀裂を覗いてみて驚いた。そこには地を覆う数のボールペンのキャップ、天に達する数のまだ使える雨傘、未完スタンプカードの海があった。「失くしたと思っていた。みんなここにいたのよ」

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骨董市で私が見つけてきたこの機械が本物のニンテンドースイッチなのかどうか。かつてこの機械からは一人分の人生を保たせるだけのタノシイを享受できたと言われる。「問題は本物か以前に、それほどの遊び心が私たちにあるかということね」そう言うと蓮子はカートリッジを逆向きに挿し込み破壊した。

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不思議なことがある。メリーとの待ち合わせに向かう電車内で読んでいた本の文中にメリーが現れて私にしそうな話をする。約束の場所で待っていたメリーは平然として「さっきの話の続きなんだけど」と言う。言葉では説明し難い話、そして正直なところ何故これが不思議なのか理解できない話でさえある。

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私がチケット発券を済ませて戻ると、蓮子は売店でポップコーンMサイズを頼んでいるところだった。止める間もなくバケツ一杯ほどもある常識はずれのそれが運ばれてきた。振り向いた蓮子の絶望した表情。二時間の上映中、私たちは映画館の駐車場で見た鳩たちがやけに大きかったことを思い出していた。

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「だめよメリー、そこは通行止めなの」蓮子はそう言って止めたが、私には分からなかった。どうして未舗装な地面を踏むことが止められるのか。どうして赤色だけの信号機や、上がらない遮断機が私たちに命じるのか。「でも、あそこに紫陽花が咲いているのに」私には分からなかった。分からなかった……。

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暑い日だった。メリーの勧めにより金のワッフルコーンを買いにセブンイレブンへ寄った。再び日差しの下に出ると、町には誰も居なかった。代わりに無数の空ペットボトルが道路に並んでいる。唐突だし無意味だし、こんな形で終わって欲しくはなかった。静かな世界でワッフルコーンはより美味しく感じた。

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ハイタッチした拍子に両手の感覚が入れ替わってしまった。私の意思でメリーの、メリーの意思で私の手が動く。かなり気味悪いが相手が仲良しで幸いだった。協力しあい半日も過ごすと慣れてきた。翌日は箸が使えるようになった。三日目に手は戻ってきた。あるいは戻ったのではなく、奪ってしまったのか。

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振り返ってすぐに状況は察せられた。メリーは店にあった無印良品のクッションに不用意に倒れこんだのだろう。最新の低反発素材を甘く見たメリーは全身を飲み込まれてもう姿が見えない。私はそのクッションを買うより仕方なかった。今でもメリーは突っつくと柔らかい。体にフィットしてしまったのだ。

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日曜日が監禁されているというビルは意外にも堀川通に面した目立つ所にあった。私も蓮子も急拵えに精一杯の武装をしたつもりだった。カミュ全集、壊れた懐中電灯、石……自転車のペダルはトンファーのように使える気がした。でも実のところ、救い出すとき日曜日の顔を見る心の準備だけはできなかった。

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メリーが勧めるので渋々試してみたが、「両耳綿棒」は本当に私を悲しくさせた。両耳に綿棒を突っ込んで中を探っている状況が情けなかったし、注意力が分散して危なっかしい。なによりも、自分の頭の中がこんなに小さかったのかと実感することはたまらない悲しみだった。メリーも後悔した顔をしていた。

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「なぜ今まで無かったのかしら」私が図を手に取って見る前からメリーは自画自賛を始めていた。「椅子にスキー板を履かせて雪の上を滑るの。スキー椅子よ」私は即座に「それならソリでいいんじゃないの」と指摘したが、メリーは首を強く振った。「絶対スキー椅子じゃなきゃダメ」今年の冬も楽しくなる。

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「このサンマルクカフェの素晴らしい点は」と言って私はメリーを励ました。「喫茶店なのに四階まであることよ」ようやく階段を上って最上階の窓際へ腰掛ける。「道が、道がある」窓から商店街を見下ろしたメリーが驚き、それから静かに目を閉じた。「ああ知らなかった。アーケードの上は、歩けたのね」

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テストが終わったらメリーとバスに乗りたい。数日間そのことばかり考えていた。通勤や観光客だらけの昼ではいけない。22時35分のがらりとした最終バスに乗り、次々降りていく客たちの中で秘封倶楽部だけが出発するのだった。バスは終点過ぎてもなぜか車庫へは行かず、暖かい夜の中を走っていく。

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「このベッドを水に浮くようにしたいのよ」とメリーは言っていた。「寝ている間に部屋が水に沈んでも、溺れずにすむでしょう」と得意がっていた。「眠ったままベッドの船が流れ出して、目覚めたら太平洋沖かも。夢の続きだと思って二度寝しそう」と心配していた。大雨がもう一週間も降り続いていた。

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「これなら私にも持てるかな」そう言ってメリーの指した棚には何も置かれていなかった。重さ順にされたバーベルの最後に「0kg」を並べるという、スポーツジムのつまらないユーモアらしかった。「やめといたほうがいいわよ。メリーの力じゃ持ち上げられたとしても、今度は下ろし方が分からないから」

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蓮子の考えた一発芸「位置についてよーい、プラセボ!」が信じられない人気を博した。爆発的速度で拡散し、SNSやTVでは連日プラセボで大勢が笑い、都市部では警官隊が出動する騒ぎにまで発展した。あれは私の親友の発明ですと、ときには言いたくなったが蓮子はもう覚えてもいないので仕方がない。

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「なぜ水たまりは青くないの?」メリーが訊ねた。「光が十分拡散しないからよ」と私は答えた。「そういうことじゃなくて」とメリーは首を振った。「なぜ、水たまりは、青くないの?」……青いべきなのに。それがメリーの言いたいことなのだった。なぜ水たまりは青くないのか、私は少しも知らなかった。

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「絶対破られない金庫があったら」と髪を拭きながら蓮子が言い出した。二人して傘を盗まれた帰り道に、私が訊ねた話だった。「何も入れない。誰かが何かを入れる前に、二番目に破られない金庫に入れる」「それから?」「絶対見つからない鍵の隠し場所を探しに行くの」素敵な話だと思った。二番目に。

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「絶対に破られない構造の金庫があったら、蓮子は何を入れる?」二人して傘を盗まれた帰り道、肩を濡らしながらメリーが訊ねた。そうして勝手に自分で答えた。「私はもしかしたら、私を入れる。裏返しに、世界全部を入れたのと同じことにならない?」私は風邪をひきそうだった。「鍵は蓮子に任すから」

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「いい電話ですね。貸してください」とメリーが言った。唐突な頼みに呼び止められた通行人はうろたえ、一言も言えぬまま手に持った携帯電話を差し出した。これがメリーの特技だった。「どうりでいつも携帯電話を携帯してないわけね」と言った私にメリーは笑い、「いい靴ですね」と足元を見た。