人は…… 人を利用しなければ上に行けないんですか…？ いい質問だ。 でも、ソレはおまえが考えてくれ。 #9

美和はクルマに興味がナイ。 話すコトはヘアメイクやファッションばかり。 仕事だからしかたないけど、オレと美和は最近会話がかみあわない。 平行線のまま、ゆっくりと離れてゆく気がする。

セックスしなきゃ男と女はわからない、って言うけど… あれはあやしいよな。 長くつきあえばつきあうほど、セックスすればするほど、わからなくなってくる──

美和とは高2からつきあいだした。 二人の間に何もなかったあの頃…… まだセックスを知らなかった頃がいちばん一体感があった気がする。

安田は熱く語り出した。 でも安田のその話は…… オレを利用するようにしか聞こえなかった。 利用しようとする安田を責める気はなかった。 むしろ、バイタリティーがある、とホメるべきだろう。 雨が憂うつに感じる…… ……何か、イヤなコトが起こりそうで不安になる。

気づいたら 美和も消えてしまった。 勤めてた美容院をヤメ、アパートもひき払い、携帯も通じなくなった…… よくあるテレビドラマのように いろんなコトがいっきに流れてく。

一週間後、石神さんから電話が入る。 吉村さんが残したモノを整理したい。手伝ってくれ…と。 そのガレージはトミサカからもほど近い場所にあった。 ウマを掛けられた半仕上げの車体…… 吉村さんが一番好んだ空冷の911。それもターボだ。

灼けたオイルの匂いをまとって、「そいつ」は待っていた────

空冷ポルシェのいいトコは、何年放っててもすぐEgがかかる。 水冷みたいにEg内部が水で腐らないからだ。 #2

Egをかけて、いきなり高回転まで回す。 どれほどソレがEgに負担か。 そして 工場でタバコをくわえる。 #2

あの値段であのEgはないよなあ。 アレは安い。 #2

結果として、コレは吉村さんがやり残してしまったモノ… まず 形にして。 そこから考えよう── #2

トミサカは変わらず盛況で、 吉村一人だけが消えたってコトかな… #2

「お茶」もつきあいなら 「セックス」もつきあい… でもサ、 決めるのはぜーんぶアタシだから。 なんで？ なんで？ なんで？ いちいちウゼーよ おまえ！ #2

おまえってホント空気読めねー奴なんだな。 おまえ もう トミサカで働いててもツマンないだろ。 吉村が死んで トミサカの灯が消えちまったと思ってるだろ。 でもな… 違うんだよ。 トミサカは何も変わらない。 ただ おまえの灯が消えただけだ。 さて、これからどーする？ お前は…？ #2

道標を喪っても その先へ道は続いている─── #2

ああ…結局 元木クンてソコなんスかねえ…… ハジけられないとゆーか 良くも悪くもワクの中つーか、 美和さんもそーいうトコ イヤだったんスかねえ… #3

空冷の911は 手の内に入る 感覚があるんだよ。 #3

おまえはもう あの911が教えてくれる世界に気付いてるし、 それこそが、 お前が「探してた世界」だろ？ #3

空冷の乾いた音が誘う世界を知りたくはないか─── #3